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広告には払う、MAには払わない? 日米のSMS活用から考える日本企業の投資配分

DDANCH編集部  SMS

2024年の米国の年末商戦。アウトドアブランドのFilsonは、SMSの登録者にセールへの先行アクセスを案内した。メールを見逃す顧客にも、買いたい商品の情報を間に合うように届ける。その短いメッセージの背後には、顧客の行動を把握し、メールとSMSを使い分ける仕組みがある。

日本企業がこの事例を見るとき、SMSの配信単価だけに目を向けていては、肝心なものを取り逃がす。検討したいのは、広告で集めた顧客との関係を、その後も自社で育てられるかどうかだ。そこには、MA(マーケティングオートメーション)や業務改善に、どれだけ継続して予算と人を置くかという経営判断がある。

広告の出稿費は売上をつくる費用として認めても、顧客データの整理や自動化の月額料金には慎重になる。その予算配分が、日本企業のマーケティングを弱くしていないか。SMSの日米比較を入り口に、考えてみたい。

米国の事例で見るべきは、送信後まで続く仕事

Klaviyoが公開するFilsonの導入事例によれば、同社は当初、優良顧客に限ってSMS登録を案内した。メールだけでは限定商品の発売情報を見逃す顧客がいることが、導入の背景だった。反応を確かめて対象を広げ、メールとSMSの行動データを使い、重複した配信を減らしている。Filsonの導入事例

注目したいのは、一斉配信の回数を増やす発想から離れている点だ。誰に、何を、いつ届けるか。その判断に、過去の接点を使っている。こうした運用では、継続購入への貢献を説明し、次の投資につなげる担当者の役割も重要になる。短文を送る作業の前後に、顧客を理解し、結果を検証する仕事が組み込まれている。

国内でも、同じ用途を実現するサービスはある。KDDI Message CastのSMS活用例には、予約のリマインドや本人確認に加え、新商品の案内、リピート利用の促進、休眠顧客への発信が並ぶ。KDDI Message Castの活用例

日本で販促の手段が欠けているわけではない。予約確認を送った先に、再来店や次回購入まで見据えた運用をつくれるか。ここから先は、通信の機能よりも、社内の担当範囲と予算の問題になる。

MAに予算がつかない構造を考える

日米のMA平均支出を同条件で比べられる統計は確認できず、広告代理店への依存が投資不足の原因だと実証されたわけでもないが、公開資料からは継続投資と社内体制の課題が見えてくる。

IPAの「DX動向2025」は、日本ではDX予算を必要な都度申請する企業の割合が高く、米国やドイツに比べ、計画的・継続的な投資を前提とする取り組みが少ないと指摘する。また、日本の取り組みは個別業務の効率化に寄りやすく、経営・IT・業務部門の連携にも課題がある。IPA「DX動向2025」

業務改善そのものに関心がない、という話ではない。顧客情報を部門間でつなぎ、売上につながる運用に育てるところで、投資が途切れていないかが問題だ。

例えば、配信担当者が毎回、購入履歴を表計算ソフトに書き出し、別の顧客リストと突き合わせているとする。MAとの連携に費用をかければ、その作業を減らせる可能性がある。だが、システム利用料だけを新たな支出として扱い、いま使っている社員の時間を計算に入れなければ、手作業を続ける方が安く見えてしまう。

さらに、改善の効果が営業、マーケティング、顧客対応にまたがるほど、一つの部門だけでは予算を持ちにくい。MAを導入して終わりにせず、データ連携や配信シナリオの修正まで続けるには、複数部門の成果をまとめて評価する責任者が要る。

代理店に任せる文化は、何を社内に残すのか

ここで問い直したいのが、広告代理店への発注を中心にマーケティングを組み立てる仕事の進め方だ。

集客の目標を代理店に渡し、獲得件数と獲得単価を毎月報告してもらう。この枠組みだけで予算を判断すれば、既存顧客の再購入や、配信業務の自動化は議題に上がりにくい。購入後のデータが社内の別部門にあり、代理店にも共有されていなければ、なおさらである。広告費は翌月も確保される一方、顧客管理の改善は別案件として後回しになる。こうした分業が、MAへの投資を細らせる一因になり得る、というのが本稿の見立てだ。

外部への依存が社内の能力形成を妨げる問題は、ITでも指摘されてきた。経済産業省の「DXレポート2.1」は、ベンダー任せで利用企業のIT対応能力が育たず、システムがブラックボックス化する構造を挙げている。広告業界そのものの調査ではないが、発注する側に判断力が残るかという問いは共通する。経済産業省「DXレポート2.1」

代理店に求める成果も変える必要がある。新規獲得に加え、その顧客が再購入したか、どの案内が利益につながったかまで、一緒に検証できる契約と体制にする。外部の専門性を借りながら、データの意味を理解し、次の施策を決める力を社内に残す。発注の仕方を変えなければ、ツールを増やしても仕事の構造は変わらない。

月額料金の先に、何の費用を見ているか

MAへの投資を具体的に考える材料として、HubSpotの価格を見てみよう。2026年10月17日確認の公式価格では、Marketing Hub Professionalは年払いで月額換算800米ドルから。必須の導入支援費は別途3,000米ドルとなる。HubSpotの料金

米国顧客向けのSMS追加機能は月75米ドルで、1,000メッセージセグメントを含む。セグメントは課金単位で、文字数などによって一つのメッセージが複数に分かれる。HubSpotの追加機能

価格は2026年10月17日確認、契約条件により変動します。

これは一製品の価格例であり、米国企業の平均予算や、日本向けSMSの相場を示すものではない。分かるのは、SMSの配信料の手前に、顧客管理や自動化の基盤への支払いがあることだ。日本の配信サービスの一通単価と、そのまま比較する性質の金額でもない。

自社の判断では、ツール代、初期設定、データ連携、運用担当者の時間をまとめて見る。削減できる作業時間と、追加で得られる利益も並べる。例えば月10万円の追加費用を、一件あたり2,000円の限界利益が出る追加購入だけで回収するなら、必要なのは月50件だ。あくまで試算だが、月額料金が高いか安いかという議論を、事業の判断に引き戻せる。

次の広告予算を決める前に

日本にはLINEやメールという接点もある。どの手段を選んでも、購入済みの顧客に同じ商品の案内を送り続けたり、複数の担当から同じ日に連絡したりすれば、関係は育たない。チャネルをまたいで顧客を把握し、送らない判断までできる仕組みが必要になる。

取り組むなら、再入荷を希望した人への案内など、一つの用途からでよい。対象者と配信条件を決め、必要なデータをつなぎ、社内の担当者に改善の時間を確保する。広告・宣伝のSMSでは、事前同意や配信停止への対応も組み込んでおく。消費者庁の法令・ガイドライン

評価するのは配信数だけではない。再購入の利益、減らせた作業、配信停止の状況まで見る。可能なら未配信の比較対象を設け、もともと発生した購入を施策の成果に数え過ぎないようにする。

広告で顧客を獲得するたびに、その後の仕事が担当者の手作業として積み上がる。そんな状態なら、次に増やす予算の一部は、MAと業務の見直しに向けるべきだろう。SMSの短い通知の先に、継続して売上をつくる仕組みを持てるか。日本企業に問われているのは、その仕組みを育てる費用を、自社の投資として引き受ける意思である。

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